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「愛のゆくえ」楽曲解説

文:有泉智子/MUSICA


「“愛のゆくえ”をめぐる、9つの物語から成る短編集」――佐藤千亜妃がそう語るこのアルバムの発端は、2015年秋にリリースされた『猫とアレルギー』の制作期まで遡る。当時、映画主題歌の依頼を受けて書き下ろした“愛のゆくえ”という楽曲に対する大きな手応えと、その一方で生まれた「愛のゆくえ」というテーマから想起される様々な情景を描いてみたいという欲求。当初はミニアルバムでもいいと思っていたと言うこのアイディアは、結果、きのこ帝国の新たな音楽的アプローチを引き出しながら9つの物語を編み出し、1枚のアルバムへと帰着した。
 共同プロデューサー&エンジニアとしてzAkを迎えて制作された本作『愛のゆくえ』(前述したタイトルトラックのみ井上うにがエンジニア&共同プロデュース)。ポップソング然とした在り方を志向した前作とは一転、多彩なリズムアプローチとともにバンド全体で奏でるグルーヴや音像の深みを追求したサウンドプロダクションとなった今作は、結果、佐藤千亜妃の歌の自由度をより高め、きのこ帝国という世界の深淵をも覗かせる作品となった。巧みな残響の扱い方も含め、深い感情表現を湛えた繊細な音と揺蕩うような横揺れのリズムによって立体的に立ち上がる、陶酔性の強い異郷のサウンドスケープ。美しいメロディに乗せ、「愛のゆくえ」というテーマに己の死生観をも重ねながら綴られる言葉の数々。そして、彷徨う魂の在り処と神秘を写し、そのすべてを包み込むかのような歌声。佐藤はこのアルバムを振り返ってバンドにとっては実験的な側面も強かったと語っていたが、筆者には、これこそきのこ帝国という音楽/表現の最深部が露わになった、彼らの真骨頂たる作品だという感触をもって聴こえてくる。生の中で常に傍にある「喪失」を自覚しながらも、儚くも大きな愛という光を想い、その不確かなゆくえを確かな願いと共に描いたこのアルバムは、果たしてあなたにどう響くだろうか

  • 愛のゆくえ

    1 愛のゆくえ

    1愛のゆくえ

    映画『湯を沸かすほどの熱い愛』主題歌として書き下ろされた楽曲であると同時に、本作の支柱にして象徴たる楽曲。きのこ帝国の醍醐味でもあるエモーショナルな轟音と、切なくも甘露なメロディが凛とした表情でその翼を広げてゆく様に否応なく感情が揺さぶられ、深く心を打たれる。<花の名前を知るとき あなたはいない>――その短いラインに狂おしいほどに渦巻く、愛する人との別れの悲しみと、その喪失の先を生きてゆく意志。音楽的にも、そして「表現の根底には常に“失ってしまうということ”がある」と語る佐藤の本質的にも、きのこ帝国のひとつの到達点にして新たな代表曲というべき素晴らしい名曲だ。

  • LAST DANCE

    2 LAST DANCE

    2LAST DANCE

    小気味よく刻まれるドラムとクールに踊るベースラインが全体をグルーヴさせながら、追憶の中に消えゆく愛おしき幻影に手を伸ばすような、どこか蠱惑的な薫りも立ち込めるミドルテンポのダンスナンバー。ロングトーンで静かに大気を震わすギターの音色からしっとりと零れ落ちる感傷と、淡々とステップを踏み続けるビートの対比が美しい。きのこ帝国が挑んだ新たな音楽的アプローチを強く印象づける楽曲であると同時に、巻き戻すことのできない時の流れと避けられない別れを理解しながらも、行き場を失ってしまった愛を最後にもう一度だけ乞い願う、切ないラブソング。

  • 3 MOON WALK

    MOON WALK

    3MOON WALK

    このアルバムの中で最もディープと言っていい、深い残響を響かせる重層的な音像がどこまでも幻惑的な世界を立ち上げていく楽曲。狂おしい熱情と青白く冷めた目線、夢と現、刹那と永遠――その境界線をゆらりと溶かしながら自由に越境していく柔らかで神秘的な歌声に導かれ、聴き手は甘美な陶酔と果てなきインナートリップへと誘われる。心地よく揺れながらもタイトなリズムと美しいリバーブを宿したギターの歪みが描き出す美しい陰影と奥行きを湛えたサウンドスケープの中で、佐藤の声の特性が存分に発揮された珠玉の1曲。是非いい音響環境でこの音の中にじっくりと身を沈めて欲しい。

  • Landscape

    4 Landscape

    4Landscape

    インタールードの役割を果たすインスト。前々作『フェイクワールドワンダーランド』にも“Unknown Planet”というインストが収められていたが、今回は蝉の羽音や鳥の鳴き声などが印象的に配されたミュージック・コンクレートだ。わずか50秒にも満たない小品ながら、強い夏の日差しを想起させるフィールドレコーディングスとグロッケンの儚い旋律が、時にじりじりと身体を焦がす熱を思わせたり、時に不安定に景色を揺らめかせる陽炎を思わせたりと、いつか見た記憶の断片をそっと手繰り寄せる。

  • 夏の影

    5 夏の影

    5夏の影

    シンプルなレゲエのリズムにダブ的な音響処理が施された、心地よい浮遊感に彩られたナンバー。ギター以外にもマリンバやクラリネットの音色がさり気なく織り込まれ、光と翳り、悲しみと快楽が静かに打ち寄せる波のように浮かんでは消えていく。「LAST DANCE」や「MOON WALK」もそうだが、バンドが新たに取り組んだ横揺れのグルーヴと佐藤の歌のタイム感はとても相性がいい。禁断の果実を食べたアダムとイブを想起させる「赦されない愛のゆくえ」を描く歌詞のストーリーは、聴き手によってその結末の捉え方が分かれる作り。あなたはこの波間にどんなエンディングを思い浮かべるのだろう。

  • 雨上がり

    6 雨上がり

    6雨上がり

    凛としたアコースティックギターの音色で始まる軽やかな楽曲。雨上がりの大気に含まれた水の粒子が柔らかに光を反射するように、シンプルな音像でありながら隅々まで神経の行き届いた音のひとつひとつが、繊細に絡み合うフレーズとリズムが、キラキラと眩く瑞々しい景色を描き出す。<後ろ姿が遠ざかり/自由は僕の手の中に>、<笑う季節を追い越して/あなたの声が消えてゆく>と歌う声は、今はもう傍らにはない愛に一抹の寂寥を覚えながらも、またここから何かが始まってゆく微かな予感を抱くような、新たな息吹きを感じさせるものでもある。本作における一服の清涼剤のような存在。

  • 畦道で

    7 畦道で

    7畦道で

    たっぷりとしたテンポで心地よく跳ねるリズムとリフレインする可憐なアルペジオが織りなす繊細な音像から、次第に厚みのあるサウンドプロダクションへと展開してゆく、穏やかな曲調ではあるが確かなバンドのダイナミクスを感じさせる1曲。佐藤が大学生の頃に作ったものだというこの曲は、<僕はひとつだけ嘘をつく>というフレーズを枕に蕩けるような歌声で<I hate you>と繰り返されるのだけど、その後、素直になれないあの日の愛を空へと解き放つかのごとく、言葉を手放して自由に舞い踊るエンジェリックな歌唱に魅せられる。その様は幾多のI love youを重ねるよりも愛おしく心を打つ。

  • 死がふたりをわかつまで

    8 死がふたりをわかつまで

    8死がふたりをわかつまで

    荘厳なパイプオルガンの調べで幕を開け、重厚なチェロの響きをシンセによって取り入れたこの曲は、このアルバムに収められた9曲の中でも最も別れの陰が希薄な、大切なあなたとの永遠の愛を願い誓う、あたたかな幸福感に満ち溢れた楽曲。1曲目で<花の名前を知るとき あなたはいない>と歌った彼女は、この曲で<きみと陽の当たる庭で 花を育てたいのです>と歌う。穏やかな起伏を描くメロディと春の陽だまりのように柔らかで優しい表情を浮かべる佐藤の歌声に、痛みも悲しみも越えて今そっと寄り添うふたりを包む、確かな光と愛の存在を感じ取ることができる1曲。

  • クライベイビー

    9 クライベイビー

    9クライベイビー

    ラストは再び轟音を召喚したエモーショナルなバンドサウンドを纏い、10年後も100年後も褪せることなくこの想いが愛する者へと届くよう願い鳴らされるこの曲でエンディングを迎える。誰の元にも、どんな愛にも、いつか必ず訪れる永遠の別離に対し、遺された者がその先を生きてゆくための歌が「愛のゆくえ」であるならば、「クライベイビー」は愛する者を遺してゆかざるを得ない側の視点から書かれた曲だ。親から子へ、最愛の人へ、大切な友へ――聴き手によって重ねる対象は様々だろうが、あるいは、楽曲を通して「あなた」へ呼びかける彼女達の想いも表れているようにも聴こえてくる。なお、歌詞に出てくる<21gを愛としよう>の<21g>は、死ぬ時に人間が失う質量=魂の重さと言われている。

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